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(2)縦断方向の特性
 縦断方向の河川環境特性については、河川工学や魚類・水生昆虫の生態学の文献(玉井他,1993 ;水野他,1993)などに詳しく述べられている。上流から下流までの河川形態の分類としては、可児(1944)による瀬と淵の組み合わせに着目した方法がよく知られている。これによると、上流部では1 蛇行区間に複数の瀬と淵がみられるAa 型、中流部では1 蛇行区間に早瀬と淵がみられるBb 型、下流部では淵と平瀬または瀬と淵の区分が曖昧になり全体がトロ場となるBc 型に大きく区分されるまた河川の流れは「侵食」「運搬」、「堆積」の働きを持つ。山から流れ出した水は谷で合流し、岩を削り、下流に土砂を積もらせていく。堆積する石や砂は上流では大きな石や礫となり、下流では削られて砂や粘土となる。河川は一般に山中では岩が露出した渓谷状で流れは急であり、谷底平野から抜け出ると砂や礫が堆積して扇状地を形成する。そこからは、河川は大きく蛇行し、交互砂州を発達させる。そして、最下流部ではトロ場となり、河床は細かい砂からシルトとなる。
 植生はこのような流れや河床材料の違いに適応して発達する。上流域では岩、礫に根を張り、急な流れにも耐えられるネコヤナギ群落、ツルヨシ群落が代表的な植生である。大きく蛇行し、交互砂州が発達する区間はもっとも河川らしい場所であり、後に述べる増減水の影響により様々な植生が発達する。カワラヨモギ、カワラナデシコ、カワラハハコなどカワラ(河原)と名前の付く植物を多く含むヨモギ−メドハギ群落やオギ群落などが代表的な植生である。下流、河口域は流れも緩く水辺にはヨシ群落が大面積を占めるようになる。しかし、下流域は人口密度が高く、改修、改変を受けている場所も多くなる。河口域では海水の影響を受ける汽水域となるため、独自の自然環境が形成される。ここの特徴は干満の影響により干潟が存在すること、汽水であるため水質、立地が塩分の影響を受けることである。干潟には植物、動物ともそれらの環境に適応したものが成育、生息しており、独自の生態系を形成している。河床材料、水湿の条件により環境が異なり、塩沼(えんしょう)湿原にはハマサジ、フクド、ハママツナが、海浜にはコウボウムギ、ハマエンドウなどが群落を形成している。この干潟内には多様な土壌生物が生息しており、シギ・チドリ類などをはじめとする鳥類の重要な餌場となっている。

 国土交通省が直轄で管理する河川は、比較的下流部の区間であり、河川の縦断形状でいえば、Bb 型からBc 型のいわゆる中下流域に当たる。しかし、四国の河川は全体的に急勾配であり、河床材料は下流域まで石礫から砂礫質である場所も少なくない。そのため、しばしば河口までツルヨシ群落が発達している。また、大きく蛇行する場所では広大な石礫の河原が発達し、美しい河川景観を示している。

 なお、このような河川環境を形成、維持していく上では、河川の「蛇行」が非常に重要な役割をはたしているそれは蛇行により瀬淵が連続し砂州が発達するからであるこのように陸域に、多様な水域環境を形成することにより、河川の生態系が成り立っている。河川の瀬と淵にはいくつかの種類があるが、もっとも自然な形は中流域に特徴的な「1 蛇行区間にある淵、平瀬、早瀬」の組み合わせである(図3)。この形は四国の河川においても広くみられる。この淵はM 型の淵と呼ばれており、蛇行部の外側が流れにより深く掘られることによりできている。このM 型の淵と瀬は表裏一体であり、この組み合わせが良好な状態で存在すれは、河道が安定し蛇行の内側には河原が形成され、河川環境が維持される(水野,1995)。逆に、淵が浅くなったり消失すると下流側の瀬も無くなり流れや深さが単調になる。そのため、蛇行がなくなり、さらに河原も消失してしまい河川の植生および生態系が単純化する。したがって、河川環境を評価、維持する上でこの瀬と淵の組み合わせに注目する必要があり、河川の環境整備においては淵や瀬の復元が有効な手法となる。