第4章 市民参加と合意形成のしくみ

2001.3.24 第14回 吉野川懇談会 


1.市民参加で計画を進める 

 第1章で述べたように、可動堰化計画では、トップダウン式(行政から市民に計画を降ろす)の「計画ありき」によって、対立が生まれました。ここでは第2章で示した「多様な視点からの第十堰問題を考える」、あるいは「吉野川全体の治水計画を考える」というところを出発点に、ボトムアップ式(市民、地域からの計画づくり)で吉野川を考えていく方法を提案します。
 まずは計画策定から合意形成までの手順の中に市民参加の場がどのように位置付けられるのかが、しっかり示される必要があります。しかし、市民がただその中で「意見を言う」だけではなく、主体的に提案や将来計画を立てるためには、吉野川についての積極的な情報収集や学習も必要となります。また、川づくりの担い手となるような市民活動を広げていくことも大事です。

(1)計画の各段階での市民意見の反映と合意形成                         

 可動堰化計画の反省を踏まえると、これからは、事業の必要性のところから、計画の各段階で市民参加を積み上げていく必要があると思います

●計画プロセス
  • 1では、問題点やニーズを理解し共通認識として確認します。様々な価値観がありますから、それらすべてをきちんと出しておくことが重要です。後の評価選択にも関わってきます。
  • 2では、目標の設定と計画条件を設定します。なにを実現するための目標なのかを具体化し、目標の絞り込みと順位付けをします。また、目標を実現する上での制約条件も明らかにしておかなければなりません。物理的条件、生物資源、歴史的・文化的・社会的条件、法制度や財政上の課題など、計画の具体化に影響のある事柄を明らかにしておくということです。4の選択肢の枠組みや5の評価にも関係してきます。
  • 3では、様々な方向性や手段を考えます。様々なニーズや意見に気を配って、アイデアレベルも含めてできるだけくさんの選択肢をあげておくことが大事です。評価基準を定め、致命的な欠陥のあるものなどをふるいにかけ、現実的で有効な選択肢を複数選択します。
  • 4では、3の選択肢を組み合わせて包括的な複数案を検討します。この中には、「なにもしない案」やある影響を軽減させるための「代償的代案」なども検討します。
  • 5では、4であげられたすべての代替案をあらゆる角度から評価し比較検討します。
  • 最後に案を選択しますが、ひとつに絞り込むのではなく、順位付けを行って複数の対策を段階的に実行することが考えられます。
●市民参加のプロセス
  • 上記のすべての過程に市民が参加し意見を述べる機会が設定されなければなりません。
  • 同時に、市民意見をまとめていく「検討の場」が必要です。
  • 「検討の場」で集約された案を市民に返して、市民全体の意見を確認していく仕組みが必要です。
  • 市民参加の各過程で、情報公開がおこなわれる必要があります。
●市民意見を反映するプロセス
  • 事業を行う行政機関は、計画の各ステップに参加し、その都度意思を表明していくことが必要です。
  • 計画と市民参加の各段階で市民間の合意と市民と行政との合意(意思決定への反映)を積み重ねていく新しい仕組みを用意する必要があります。

2.市民、行政が情報を共有し、学びあう

 市民参加による計画づくりでは、川のことや吉野川とかかわって生きている人の情報や知恵を、行政も市民もともに学んでいくことが基本になると思います。
 また市民参加を単なる手続と捉えず、川づくりの計画がより豊かに、人の心や暮らしに生きるものにするために市民参加を行なうという視点が大事だと思います。

●市民の側からの情報発信

 団体訪問では、行政の情報公開の問題が強く指摘されていました。行政は、市民が活用しやすいように、客観的でわかりやすい資料を提供する必要があります。膨大な資料をどのような形で市民に提供していくのかを検討する必要があります。

●市民の側からの情報発信

 情報は行政の側だけにあるのではありません。市民の暮らしの周りや体験の中に宝物のような情報があります。市民の側からも主体的に情報を発信していく必要があります。

●行政情報と市民情報を地図化して情報の共有化を図る

 市民団体などの調査による情報収集、整理したり、流域の各地区、市民団体、地域の学校等が中心となり、生き物、遊び場、景色、歴史など川にかかわる豊かな情報を掘り出して地図上に整理する。
 これに、行政が調査した科学的な情報などを重ね、ひとつにまとめて、誰でもが見られる形にして提供していくことで、流域の情報を多くの人が共有することができます。その場所ごとの情報がわかるとともに、上流と下流のつながりなど、全体像が見えてきます。
 市民参加で吉野川を考えるというのは、自分の考えを述べればよいということではありません。その場所に即した提案や上流下流のつながりを配慮した提案が必要になってきます。
 そのときに、吉野川の場所ごとの情報が「空間情報」として、話し合いの場に提供されていることが重要になります。

●「川に出て考える」場をつくる

 市民参加の場で起こりがちなこととして、理念を述べ合うということがあります。上流のことを話しているのに、自分が住んでいる下流だけをイメージして発言するといったことが起こります。そうすると、話がかみ合わなくなります。
 ある場所の計画を考える場合は、参加者が必ずその現場に立って、情報を共有した上で話をすることが大事になります。洪水のことを考えるには、大雨の時の吉野川を見に行くことなどが考えられます。日頃から、「川に出て考える」機会を用意することが必要です。

●吉野川の治水、利水、環境について学ぶ

 計画づくりを通して、案を出したり、評価するために必要な知識を深められる機会が必要だと思います。これは、専門家や行政が市民をサポートする形で行なっていく必要があります。

●「吉野川情報センター(仮称)」の提案

 市民の情報や行政の情報がひとつの場所に集められ、誰もが気軽に立ち寄れ、市民団体が会議などに使うことのできる拠点が必要だと思います。当面、行政がこのような活動をサポートしつつ、将来的には市民団体や流域活動団体が主体となって、NPO(非営利組織)による運営が可能になるとよいと考えます。市民と行政による双方向の情報の発信・収集をベースにしながら、吉野川の住民活動を豊かにしていく様々な活動の連絡拠点としても機能していくことが期待できます。

3.市民活動の輪を広げる

 議論の場だけでなく、実践活動の輪を広げることで、市民参加は継続性のあるものとなっていくのだと思います。すでに積極的に川にかかわっている市民活動団体などを核に、新しく市民活動組織が生まれ、それをつないでいくことが、計画づくりに市民が主体的に参加する基礎になると思います。
 日常的に川に関わる市民がどれだけいるかがカギになるでしょう。

●市民団体と行政の協働事業を検討する

 市民参加が一歩進んだ形として、行政と市民団体が互いに対等の立場で川づくりの事業に取り組むという形が考えられます。特にNPO(非営利法人)は、徳島でも今後増加すると考えられ、施設の運営、水辺や森の管理、イベント企画など、市民ならではのアイデアと行動力を、川づくりの事業の中で活躍してもらうことで、さらに市民参加の輪が広がっていくと思います。
 吉野川にある水防竹林を市民参加で管理していくための事業など、市民と行政が話し合い、お互いに協力しようという事柄をパートナーシップ事業として予算化するなど、市民と行政が協力して行う新しい事業を生み出すことも必要でしょう。

●流域自治体と市民活動、それぞれの連絡組織づくりと連携

 吉野川の治水は、河川管理者だけの役割ではありません。流域自治体それぞれが災害に強いまちづくりをすることが必要です。と同時に、上流と下流の町では利害が異なるということもありますから、日頃から流域自治体や国土交通省と徳島県が交流する仕組みが必要と思われます。
 市民の側も、それぞれがバラバラに活動するのではなく、緩やかな連携を主体的につくりだしていくことが必要だと思います。
 市民参加の計画づくりを通しての話し合いの場、情報センターなどを通しての交流を重ねて、自然な形でつながっていくことが望ましいと思います。
 市民団体の連携組織と流域自治体の連絡組織が、それぞれ独立性を保ち、それぞれが提案をしていく仕組みをつくる必要があると思います。

●「吉野川流域協議会(仮称)」の設立

 第十堰の問題解決や市民参加による計画づくりをすすめていくには、行政と市民の日常的な交流の場を用意し、案をまとめ、合意形成を図っていく仕組みが必要です。第十堰をきっかけに「吉野川流域協議会(仮称)」のような仕組みを生み出す方向で取り組んでいくことが重要だと思います。

●市民が、より積極的に計画づくりにかかわる手法例

「流域ワークショップ」 :市町村等が世話役となり地域住民が参加し、地域から積極的に意見、提案を引き出す。
「テーマ別の公開討論会」:これまで話されなかったことについて、市民や市民団体が中心になってテーマ別に話し合う。
             その中で市民が相互理解を深め知恵を出し合う。

●多くの市民の意見を把握する方法例

「流域市民アンケート」、「複数案に対するコンペ」など