[要約編]
那賀川流域における水源かん養機能に及ぼす森林の影響評価
 
徳島大学工学部建設工学科  
工博教授 端 野 道 夫
工博助手 吉 田   弘
 
 那賀川上流長安口ダム流域において、過去約40年間の日降水量、日流出量および日平均気温と流域の植生分布資料を基に、流域蒸発散量(=遮断蒸発量+蒸散量)の評価を試みた。続いて、森林樹木が水源かん養機能(洪水低減機能と渇水緩和機能)に及ぼす影響について評価を試みた。以下に成果をまとめる。

1.流域蒸発散量の経年変化の評価
経年的な広葉樹から針葉樹への樹種転換とその後の森林施業(間伐・枝打ち)不足を背景として、流域蒸発散量は増加の一途をたどっていることを示した。
蒸発散量の構成要素である降雨遮断蒸発量と蒸散量を比較すると、特に降雨遮蒸発量に顕著な増加傾向が認められることを示した。
2.森林樹木の洪水低減機能に及ぼす影響
洪水流出シミュレーションを通して洪水低減機能に対して森林樹木の密度が最も影響力の大きな因子であることを示した。
森林表層土壌での浸透能と表層土壌は洪水低減機能に対して支配的な因子ではないことが分かった。
過去に洪水の発生した1961年、1971年および1992年に対して解析した結果から、近年では1961年に比べて、枝葉の部分の面積が約2.4倍に増加した結果、降雨遮断蒸発量の増加によって、洪水ピーク流量は73.8%にまで減少した。
森林流域での洪水低減機能を発揮させるには、森林施業を実施せず、むしろ現状のような放置した状況にとどめておくことが有効であることを示した。
3.森林樹木の渇水緩和機能に及ぼす影響

渇水時の低水流量を維持する渇水緩和機能についても、長期流出シミュレーションを通して森林密度が最も支配的な因子であり、表層土壌の浸透能や土壌厚の影響は小さいことが明らかになった。

過去の渇水年である1960年と1986年について解析した結果から、洪水低減機能の場合とは反対に、森林施業不足で枝葉面積が約2.3倍になると、蒸発散量の増加によって低水流量は85.5%まで減少した。
森林の渇水緩和機能を増進させるためには、森林施業を積極的に進めることが有効であることを示した。

 以上を総括して、流域の流況を支配する森林密度の増減は洪水低減機能と渇水緩和機能に対して全く逆の作用を及ぼすこと、それ故に「緑のダム」である森林の水源かん養機能を利用して治水と利水の両立を図るのは困難であることが示された。したがって、「緑のダム」の渇水緩和機能を最大限に利用して利水を図るとともに、「人口のダム」で洪水ピーク流量の調節を行うというように、今後は「緑のダム」と「人口のダム」の相互補完性を明確に認識することが重要である。

注)これは1997年8月発行の同名[概要編]の要約編です。詳細な内容は概要編をご覧下さい。

[ 戻る ]