議事参考資料/あつれき問題事例(3)

2001.2.3 第11回 吉野川懇談会 



■参考資料3:愛知万博検討会議

愛知万博では、事業者側(3者)とNGO全国組織(3者)による「6者合意」に基づき、「検討会議」が設けられた。NGO全国組織との協議という点が第一に注目される。
特徴的なことは、検討会議メンバーの選定である。従来は、事業者がメンバー選定をする。これが、「御用機関」といった批判の元になっている。6者協議により、メンバー構成などが話し合われ、検討会議メンバーは、各団体に委ねるという方法をとったことが注目される。
もうひとつは、従来の委員会のように事業者側が用意した計画の善し悪しを検討するというのではなく、委員個々人が提案するという方法をとっていることである。要するに、どのような万博にすべきかをみんなで考える場とすることを目的にしている。

ただし、この会議には当事者(反対、賛成団体)が入っており、その意味では「共通のテーブル」ということになるが、団体等の意見に縛られて、委員個々人の意見を元にした創造的な議論にはならない場面もあったようである。この辺の問題をおさえておく必要がある。
(1)検討会議設立への経緯

・1997/6 BIE総会で開催地を愛知にすること決定
・2000/1 BIE「博覧会を利用した土地利用計画」と批判したことが新聞報道される
・2000/4 通産省・愛知県・博覧会協会、「新住事業」取りやめ表明
・2000/4 6者合意
       通産省・愛知県・博覧会協会
       日本野鳥の会、日本自然保護協会、世界自然保護基金日本委員会

 1988年10月、知事、市長、地元財界首脳の懇談により、愛知万博を政府に働きかけていくことを決定。同年12月、BIEにもその意思を表明した。
 90年、愛知県は会場候補地を瀬戸市南部、「海上町を中心とした周辺山林地一帯」(350ha以上)に決定。同年、瀬戸市の業界団体などが「21世紀万博誘致瀬戸地区協議会」を設置した。しかし、計画地区は、多くの歴史的遺産や貴重な動植物のある地域であったため、計画に反対する市民団体が相次いで組織される。日本野鳥の会などの「大手」団体も、愛知万博計画に疑問を投げかけていく。
 97年6月、BIE総会で、カナダのカルガリーを破って開催権を獲得。10月、財団法人2005年日本国際博覧会協会(以下、博覧会協会)が設立され、本格的に万博計画が始動する。
 2000年1月、BIE視察団との会談内容を記したメモが新聞報道される。それによると、フィリプソン議長は「環境団体とのコミュニケーションが取れていないことへの懸念を表明。新住事業に対しても、「国際博覧会を利用した土地開発事業にすぎない。」と強く批判。新聞報道以降、計画は完全な袋小路に陥った。

(2)6者合意
 日本国際博覧会協会、愛知県及び通商産業省の3者は、4月、海上の森における会場計画のあり方等について、地元関係者、自然保護団体、有識者等の意見を幅広く聞きながら検討を進めることとした。
 これら3者と世界自然保護基金日本委員会、日本自然保護協会及び日本野鳥の会の6者は、検討会議を設けることなどについて合意した。

(1)

会議の名称は、「愛知万博検討会議(海上地区を中心として)」とし、市民参加による合意形成を図るものとする。

(2)

委員については、地元関係者、自然保護団体、有識者等のバランスに配慮しつつ、愛知万博のあり方に対する明確なビジョンをもった人を選ぶ。博覧会協会は、事務局を務める。

(3)

会議の場を万博のプロセスにきちんと位置付け、段階的に合意形成を図る。

(4)

第一段階の会議の場における議論の重点は、博覧会における海上地区の位置づけに置く。ただし、議論の対象範囲は、青少年公園等他の地区についてや博覧会の内容、海上の森の保全・活用に関する考え方にも及ぶものとする。

(5)

会議の場においては、情報の共有を図りつつ、複数の案について比較検討を行う。

(6)

会議の場および配布資料は、公開とする。この他、広く意見を聞くなど、コンセンサスの形成を図る。

(7)

早期の登録を目指しつつ、徹底した議論を行う。
 なお、この合意事項の実施に当たっては、地元の理解を得るよう周知等に努めるものとする。
(3)検討会議の目的
 会議は、博覧会の開催に向けて、会場候補地である瀬戸市南東部地区等の活用に当たっての基本的枠組みを整理し、協会が行う会場計画策定作業等の指針を示すことを目的として、幅広い観点から合意形成を図りつつ審議する。
(4)検討会議の目的
 ●委員の選出方法
地元関係者に9人、自然保護団体に9人(全国組織3人、地元組織6人)を割り当て、それぞれ各自で選出するという方式を取った。
そのほか、有識者から6人、博覧会協会企画運営委員から4人が選出。その選任は6者協議の当事者6者が協議して決めた。
*従来の審議委員会等の委員は事業者が選定し、「御用委員会」といった批判が強い。愛知万博では、団体等を選定し、委員は団体等が選定するという方法をとった。
 ●会議の運営

委員長の選出は、立候補者が所信演説を行い、無記名で投票するという手法をとった(従来は、あらかじめ委員長が予定されていることが多い)。

各委員は意見を提出する権利をもち、それをもとに議論。事務局は質問事項への調査、資料の収集、議事録の作成など事務方に徹した。従来の各種審議会のように事業者が提案を作成し、それを委員が評価する形態ではなかったことは、自由な議論を担保する元となった。

情報公開:傍聴、インターネット同時中継等
(5)ポイント

BIEという外圧による方針変更(再検討の方向性がある程度はっきりしている)

6者合意:全国組織であるNGO(3団体)と事業者(3者)との協議。

討会議メンバーの選定方法や委員長選挙。

事業者側の提案の是非ではなく、各委員からの提案に基づく議論。

各団体のアピール合戦の様相を呈することが特に前半の会議にみられた。委員には高い提案作成能力が求められる。事業者の側も、柔軟に実現への可能性を探る誠実さが要求される。
(6)問題点(2000.9.3公開シンポジウム(東京)等での指摘)

環境団体選出委員は性質上、団体の代表の性格を帯びる。その結果個人の意見が表明しにくい、あるいは意見を変えにくいという「党議拘束」が生じてしまった。バックの団体が選出委員を解任し、また復帰を求めるといった騒ぎも生じた。検討会議の場では必要に応じて意見をかえる事が重要。

オンタイムの情報公開は、かえって委員が意見を変えづらくする側面もあったという。会議に参加するのはあくまで「一個人としての市民」であるという認識が必要である、との意見が複数の委員から述べられていた。

検討会議の検討範囲・決定権限は曖昧なものであった。検討会議の名称に「海上地区を中心として」という副題がつけられており、討議課題が海上の森の使い方なのか、長久手町や藤前干潟の問題まで含めるのか等、かなりもめる原因となった。委員長試案および第8回検討会議での合意事項の位置付けも明確化されていない(それが良い点であるとの意見もある)。

会議の目的や討議課題、運営ルールについては、「ある程度予めはっきりさせた上でスタ−トすべきである。この点で6者合意は曖昧な部分があり、かつ運営ル−ルについての合意が先ず必要であった」との意見がある。

検討会議はあくまで危機管理組織であり、あまり多くの役割を検討会議に押し込むことはお門違いだとという意見がある。検討会議が組織として権力化してしまう懸念もある。今回は海上の森の使用法を中心にする会議であるから自然保護派の委員が多く入ったが、別の場面では別の構成員になることも十分考えられるとの意見である。