第十堰問題のいい解決に向けて/最終提言








平成13年3月24日


「明日の吉野川と市民参加のあり方を考える懇談会」




目   次

はじめに

第1章 対立を解消し、新しいしくみに向けて

 1.「中間提言」の内容

 2.「中間提言」以降の取り組み

 3.対立を解消し、新しいしくみづくりに向けて

第2章 問題解決の方向性

 1.新しいスタートラインの提案/これまで話し合われていない課題を優先して検討する

 2.第十堰の取り扱いに関して優先して検討すべき課題

  (1)第十堰に関しては「現堰の価値評価」や「可動堰以外の方策の検討」からまず始める

  (2)吉野川全体の治水計画を検討する

 3.計画の考え方および評価の視点

  (1)総合治水対策の視点

  (2)複合的な対策を組み合わせ、状況の変化に対応する

  (3)複数案を多様な視点から評価する

 4.どうしたら「いい治水ができるか」/流域全体で総合治水を

 5.行政の対応と条件整備

第3章 「総合治水・市民参加検討委員会〈仮称〉」の提案

 1.「総合治水・市民参加検討委員会(仮称)」の提案

 2.「総合治水・市民参加検討委員会(仮称)」の役割と構成など

  (1)検討委員会設置までのプロセス

  (2)検討委員会の性格

  (3)検討委員会の役割

  (4)検討委員会の構成

  (5)委員の選定方法

  (6)検討委員会の運営方法

  (7)検討委員会の発展イメージ

第4章 市民参加と合意形成のしくみ

1.市民参加で計画をすすめる

  (1)計画の各段階での市民意見の反映と合意形成

2.市民、行政が情報を共有し、学びあう

3.市民活動の輪を広げる

おわりに





はじめに

 私たち「明日の吉野川と市民参加のあり方を考える懇談会」(略称:「吉野川懇談会」)は、この 1年間、14回の会議と12回の運営委員会、合計26回の会合を重ねてきました。
 昨年7月15日に「中間提言」をまとめ、その後、第十堰に関わる団体や行政機関を訪問し、 また団体アンケートやはがきアンケートなどを行って、様々な意見をいただきました。
 私たち懇談会は、「中間提言」以降8回の会議を重ね、以下の「最終提言」をまとめました。 この「最終提言」をもって懇談会の役割を終えたいと考えています。

懇談会の目的

■「最終提言」の骨子


 「中間提言」では、問題解決の糸口として「共通のテーブル」を設け、そこで流域住民が 参加する仕組みや多様な案を探り選択していくための方法を話し合うことを提案しました。 しかし、現在、「可動堰を選択肢として残す/残さない」で対立的な意見があり、 「共通のテーブル」は実現していません。このような状況をふまえて、「最終提言」では、 以下の提案をしています。
最終提言の骨子
 これまでは、建設省(現国土交通省)の計画の枠組みの中で、可動堰化計画に賛成か 反対かという対立的な議論が行われてきました。今重要なことは、「可動堰化計画」と いうこれまでの枠組みを変えることだと思います。
 私たち懇談会は、これまで話し合われてこなかった課題をまず優先して検討し、新た な対話の土台を整える。その上で第十堰の取り扱いを検討することが必要だと考えています。

第1章 対立を解消し、新しいしくみづくりに向けて

1.「中間提言」の内容 

 中間提言では、これまでの問題点を以下のように整理し、解決への糸口として、「共通のテ ーブル」を設け、そこで、市民参加の仕組みを検討することを提案しました。 中間提言内容1提案

 第十堰問題では、計画をつくる過程に市民参加がなかったことと、可動堰化計画という 「ひとつの選択肢」しかなかったことに対立の要因があると考えて、「多様な選択肢」を用意 する方向で市民参加と合意形成の仕組みを検討することを提案しました。
中間提言内容図1図2

2.「中間提言」以降の取り組み

 懇談会では、「中間提言」を第十堰に係わる市民団体や行政機関(42の団体・機関)にお送り し、「中間提言」への意見をいただくことをお願いしました。また、「かわら版」(懇談会の広 報誌)につけたアンケート調査も行ってきました。その結果、団体アンケートへの回答は13通、 はがきアンケートは41通いただきました。団体訪問については、2月までに17の団体・行政機関 (1団体は個人対応)が対応してくださいました。この間、昨年8月、与党による「白紙勧告」が あり、状況が大きく変化しました。いただいた主な意見は、以下のようなものでした。 白紙勧告アンケート意見

 このように、「白紙勧告」の中身をめぐって見解の違いがあり、そのことの整理がつかないと 「共通のテーブル」につけないことや、「共通のテーブル」の運営の枠組みを示すことが必要だ ということがわかりました。
 さらに、「建設省は疑問に答えていない」「可動堰をまた持ち出すのではないか」など、建設 省(現国土交通省)や吉野川第十堰建設事業審議委員会(以下、審議委員会)への根強い不信が ありました。このように事態をこじらせた要因には、可動堰化計画を前提とした「説明」や「対 話」しかなかったことがあります。理由を明示せずに「計画妥当」の答申をだした審議委員会も、 説明責任を果たしたとはいえないと思います。

3. 対立を解消し、新しい仕組みづくりに向けて

 「白紙勧告」以降、「可動堰を選択肢として残す/残さない」という対立的な状況が続いてい ます。これは、従来の「可動堰に賛成/反対」という対立構造の延長線上にあります。
 建設省(現国土交通省)が、市民参加の機会を設けずに可動堰化計画を策定し、そのために、 「可動堰に賛成/反対」という二者択一的な対立構造が生まれました。
 ここから言えることは、まず、計画を決める前の段階に戻すことです。そして、計画をつく る過程に市民参加を組み込むこと、ひとつの選択肢ではなく多様な選択肢を用意すること、市 民意見を反映した計画をつくること。これが、基本課題です。
 計画を決める前の段階に戻って市民参加で議論するとして、問題はどのような検討課題のも とに話し合うかということです。「最終提言」では、第2章で、「計画ありき」によって除外さ れ、話し合われてこなかった課題を優先して検討することを提案しています。
 しかし、それだけでは十分でありません。先に進むには、次のような課題があります。
 ●計画をつくる各過程にどのような市民参加の仕組みを用意するのか
 ●たくさんの市民の意見を持ち込みまとめていく「検討の場」をどうするのか
 ●それを市民全体で討論し市民全体の意見として確認する方法はどうするのか
 ●流域市町村ごとに意見が異なった場合は、どのように調整するのか
 ●確認された市民の意見を意思決定に反映させるにはどうしたらいいか
 これらの課題は、「可動堰を選択肢として残す/残さない」の議論をするにしても同じです。
 問題は、「計画に市民意見が反映されていない」というところから始まっているのですから、 「市民意見を反映するための新しい仕組み」を市民の側から提案していくことが重要だと思います。
 これまでの対立的議論の枠組みをそろそろ切り替えて、市民の側からの創造的な議論を開始する 必要があると考えます。賛成・反対の枠組みを越えて、市民と市民、団体と団体、市民と行政が協 力して問題の解決を考えることが重要です(第3章/第4章)。

第2章 問題解決の方向性

 第1章で述べたように、「可動堰を選択肢として残す/残さない」は、可動堰化計画を前提とし た対立的な議論になっています。私たち懇談会は、そのような議論の枠組みを変えることを提案し たいと思います。
 ここでは、新しいスタートラインや計画の考え方などについて、提案します。

1.新しいスタートラインの提案/これまで話し合われていない課題を優先して検討する

図3枠組みを拡大

 これまでは、建設省(現国土交通省)が決めた計画の狭い枠組みの中で、賛成・反対の議論がな されてきました。その枠の外には、議論の対象からはずされ てきた課題がたくさんあります。いずれも、第十堰の取り扱いを考える上で欠かせないものです。
 可動堰化計画は、現堰を撤去することが前提になっています。そのために、「現堰を活かしつ つ目標を達成する」という考えは、最初から除外されました。今、市民団体からいくつかの提案 がなされていますが、これらは、「現堰を活かす」というところから発想されているものです。
 目標の設定や選択肢の検討の段階で十分に検討されていたならば、もっとちがった展開になっ ていたはずですし、本来は第十堰に関連するすべての課題をテーブルに広げて検討すべきだった のです。
 私たち懇談会は、新しい計画づくりのスタートラインとして、これまでに話し合われてこなかっ た課題を優先して検討することを提案します。そのことによって、建設的な市民参加のスタートラ インに立てるのではないかと考えます。

2.第十堰の取り扱いに関して優先して検討すべき課題

 これまで話し合われていない課題を先行するという視点から、第十堰に関しては、次のことを優 先的に検討することを提案します。

(1)第十堰に関しては「現堰の価値評価」や「可動堰以外の方策の検討」からまず始める

 現在、「可動堰を選択肢として残す/残さない」で対立していますが、共通している部分があると 私たちは考えます(図4)。それは、可動堰に賛成してきた団体も「可動堰以外によい方法があれば可 動堰にこだわるつもりはない」と表明していますから、「まず可動堰以外の方法を検討する」という点 では、共通点を見いだせるのではないか。共通性のあるテーマから優先したらどうかということです。
 もし、可動堰推進団体の方も納得できる案があり、多くの流域住民もそれがよいという案がでてき たら、それで合意形成が図られることも考えられるわけです。また、現在、いくつかの市民団体が 「可動堰以外の案」を検討したり、提案したりしていますから、その受け皿を用意するという意味で も、必要なことだと思います。
図4意見共通性

(2)吉野川全体の治水計画を検討する

 懇談会の議論では、吉野川全体の治水計画から検討すべきだという意見が多数でていました。これ は、至極当然のことです。しかし、この問題でも、これまで十分に話し合われていません。
 団体訪問でも、可動堰化計画で想定されている洪水流量に疑問が出されていましたが、吉野川全体 の治水計画に立ち返って議論することが必要ですし、もし前提条件を変えることになれば、当然第十 堰の取り扱いも変わってくる可能性があるわけです。したがって、吉野川全体の治水計画を市民参加 で検討し、その上で第十堰の取り扱いを検討することが必要だと考えます。
 また、これまでは河川管理者が治水計画を立案する仕組みになっていましたが、平成9年の河川法 改正によって、流域市町村や市民が参加して「河川整備計画」を検討する仕組みが新しくできていま す。現在、全国各地の河川で市民参加による検討が始まっていますが、徳島工事事務所も吉野川の 「河川整備計画」を市民参加で検討することを表明しています。
 河川法の改正や河川審議会の答申など、計画当時と大きく状況は変化しています。こうした状況変 化を踏まえて、吉野川全体の治水計画を市民参加で検討し、その上で第十堰の取り扱いを検討するこ とが必要だと考えます。
 いずれにしても、まず「可動堰以外の有効な方策」が出そろうことが肝要であり、また、吉野川全 体の治水計画との関係で総合評価をすることが必要だと思います。その上で、実現可能な複数の対策 を決め、合意できるところから始めるというプロセスを提案したいと思います(図5)。

検討フロー



3.計画の考え方および評価の視点


(1)総合治水対策の視点

 河川審議会は、昨年12月に「流域での対応を含む効果的な治水の在り方について」という中間答申 を出しました。それは、これまでダムや河川改修を主体に治水対策がすすめられてきましたが、土地 利用の変化や異常豪雨の頻発などにより、通常の河川改修のみによる対応には限界が生じてきており、 流域での対策を強化するという答申です。
 こうした流域での対策を含む複合的な治水対策は「総合治水対策」と呼ばれ、これまでは、都市化 が著しい河川ですすめられてきました。この答申ではすべての河川に対象を拡大することをうたって います。吉野川もこれ以上の新設ダムは難しいなどの「限界」を抱えており、「総合治水対策」の視 点から治水計画を見直す必要があると考えられます。
総合治水対策洪水安全度

(2)複合的な対策を組み合わせ、状況の変化に対応する


 これまでは、大規模工事で一気に治水安全度を上げる考え方が主流でした。これは費用と時間がか かる、社会状況の変化に対応しにくい、完成まで効果が発揮できないという問題があります。複数の 対策をできるところから、また合意できるところから積み重ねていくという方法なら、着実に安全度 が上がり、社会的状況の変化にも対応しやすいということがあります。
 現時点で有効と思われる複数案を元に、緊急性の高いところにまず手を着けて次のステップに移る という行き方が現実的です。計画案を、ひとつだけ選択するというのではなく、複数の対策を組み合 わせ、段階的に実行するという考え方に移行すべきだと考えます。

(3)複数案を多様な視点から評価する

 可動堰化計画は、主に技術的な面や治水効果などから「ベスト」と説明されてきました。しかし、 その他にも経済面、社会面、文化面、環境面、法制度面など、多様な評価軸があります。こうした 評価軸をまず確立して総合的な評価をする必要があります。
 市民には様々な価値観があります。どのような評価軸で、誰がどのように評価して、どのように 市民が参加するのかという評価システムの検討が必要です。現在は、参加の仕組みも評価の仕組み もありません。これがないと、現在でている市民案も受け皿が無く、宙に浮く可能性があります。
 多様な案を検討する場と評価する仕組みを確立しておくことが重要です。
解決不可能


4.どうしたら「いい治水」ができるのか/流域全体で総合治水を


 これまでは、可動堰化計画を軸に対立的な議論が続いてきました。これから必要なことは、どうし たら「いい治水」ができるか、どうしたら治水と利水、環境のバランスをとることができるかを市民 参加で話し合うことではないでしょうか。
 現在、市民団体のみなさんが「可動堰に替わる案」を考えているというのもそういうことだと思い ます。それを、流域全体の市民参加と合意形成のルールに乗せていくことが必要であり、そのルール をどういう形で生み出すかを話し合うことだと思います。
 総合治水対策とは、河川だけでなく流域、つまり人が住んでいたり農林業などの営みが行われてい る土地全体で河川に負担をかけない対策をしたり住まい方を改善したりするなどして、災害に強いま ちづくりをすすめることです。また、避難警報や避難システムなど、被害を軽減する対策を講じるこ とです。
 総合治水対策は、河川管理者だけでなく、県市町村のまちづくりの課題でもあり、流域に暮らす一 人一人の課題でもあります。河川管理者だけ、行政だけ、市民だけでは解決できません。それぞれが 協働する関係をつくる方向で知恵を出し合うことが必要だと思います。
 「まず可動堰以外の方策から検討する」ことと、「総合治水の視点から吉野川全体の治水計画を市 民参加で検討する」という方向で一致できるとしたら、これからの議論は、「可動堰に賛成/反対」 という対立的な議論にはならないと思います。
 みんなで納得のいく「いい解決策」を見つけるために知恵を出しあう。そのような転換を図りたい ものです。

5.行政の対応と条件整備

 団体訪問を通じて、可動堰化計画に疑問をもつ団体からは、建設省(現国土交通省)や県のこれま での対応に、根強い不信感が出されていました。それは、「疑問に応えていない」という意見や、 「対話を呼びかけながら改築は必要。可動堰ベストの考えは変わらないというのは住民無視である」 といった意見です。審議委員会にも根強い不信がありました。
 国土交通省と県市町村は、今後の対応として次のことを表明する必要があると考えます。

 ・吉野川全体の治水計画(河川整備計画)を総合治水の視点から市民参加で検討する。
 ・県や流域市町村は、流域対策や被害軽減対策の検討を行う。
 ・第十堰については、「まず可動堰以外の有効な方策」を検討する。
 ・有効な対策案が公正に評価され、十分な議論を尽くして、多くの住民が納得できる案については 、その案を尊重する。
 ・計画の各過程に市民参加を組み込み、多くの住民の納得がいくような合意形成プロセスを重視す る。

 今日の根本的な要因は、「計画ありき」から始まったことです。そして、その後の対応にも多くの 問題がありました。行政がきちんとした姿勢を提示し、市民参加の議論を豊かな内容にするための努 力を求めたいと思います。

第3章 「総合治水・市民参加検討委員会(仮称)」の提案

 第2章では、第十堰の問題解決に向けて、優先すべき課題と計画づくりへの留意すべき視点を提案し ました。ここでは、市民参加による「最初の検討の場」について提案します。

1.総合治水・市民参加検討委員会(仮称)」の提案

 「中間提言」では、意見の異なる団体代表や河川管理者などで構成する「共通のテーブル」を設け、 そこで話し合うことを呼びかけました。しかし団体訪問では、「現状では主張が食い違って話しが進 まないのでは?」「一緒に話し合う前に前提事項を整理する必要がある」「誰もが認める仲介者が必 要」という意見をいただきました。
 これらの意見をふまえ、懇談会では、千歳川放水路検討委員会や成田空港円卓会議、愛知万博検討 会議の事例を検討し、「最初の検討の場」として、「総合治水・市民参加検討委員会(仮称)」 (以下「検討委員会」という)を設けることを提案することにしました。
 「検討委員会」が会議の進行役や団体間の仲介役になって、まず各団体との意見交換会を行い、問 題点を整理することを想定しています。現段階では、「共通のテーブル」は実現していませんが、団 体訪問では、テーマによっては話し合いに参加したいというところもありますので、複数の団体が参 加した「ゆるやかな共通のテーブル」を創り出すことも可能だと思われます。
 また、千歳川放水路のケースでは、意見交換会のほかに拡大会議を設けており、そこが実質的な「 共通のテーブル」になりました。拡大会議には、放水路計画の「白紙撤回」を求め、円卓会議への参 加を拒否していた団体も参加しました。
 「検討委員会」を公正な第三者機関として立ち上げることができれば、「共通のテーブル」実現も 不可能ではないと思います。
 現在、可動堰に替わる市民案も提案されており、こうした市民案の受け皿としても機能すると考え られます。
対話の場


2. 「総合治水・市民参加検討委員会(仮称)」の役割や構成など


(1)検討委員会の設置までのプロセス

・事前に検討委員会の設置に関する意見募集や公開討論会など市民参加の場を設け、可能な限り市民 意見を反映した形で検討委員会の性格、役割、構成、選定方法、運営方法、設置主体などを定める。
・行政機関のどこが設置者になるかについては、市民意見を募るなどした上で河川管理者(国土交通 省)と関係自治体が協議し判断する。

(2)検討委員会の性格

・「吉野川第十堰建設事業審議委員会」のように、事業者が立案した計画の妥当性を判断したり、 意思決定をする場とはしない。
・吉野川流域でどのような治水対策を進めたらよいか、また、どのような市民参加と合意形成の仕組 みをつくるかについて市民参加で検討する場とする。
・団体や市民が参加する会議などの進行役となり、意見を集約したり、これまでの経過や問題点を整 理する。
・市民意見をまとめるために「検討委員会」として独自の提言を示す。
・「検討委員会」の提言は、あくまでも市民間の話し合いや団体間の話し合い、あるいは市民と行政 の話し合いをすすめるために行うもので、「検討委員会」が何かを決定したり、「検討委員会」が意 思決定の場となるものではない。

(3)検討委員会の役割

・吉野川における総合治水対策を市民参加で検討し、有効な複数の対策案を提言する。
・第十堰に関しては、まず可動堰以外の方法を市民参加で検討し有効な複数の対策案を提言する。
・問題解決に向けた基本方向や市民参加と合意形成の基本的枠組みについて検討し提言する。

(4)検討委員会の構成

・様々な意見を収集整理するという性格から、第十堰問題に直接関わる団体代表や行政関係者で はなく、第三者的な立場の人が望ましい。
・異なる意見に耳を傾け公正な立場で議論できる人材、吉野川の総合治水対策を提言できる人材、 市民参加や合意形成に関する研究や実践経験があり創造的な提言ができる人材など。
・公共事業、市民参加、合意形成、総合治水対策、環境問題など、第十堰問題に関連する分野の 人材をバランスのよい形で構成する。
・一般市民(公募)、学識経験者、NGO(非政府組織)、NPO(特定非営利活動法人)などが考えられる。
・団体推薦枠を設け、NGOやNPOの全国組織、あるいは第十堰に関わる市民団体などから推薦を受け ることが考えられる。ただし、団体の代弁者としてではなく、個人として公正で建設的な意見を述 べることを原則とする。

(5)委員の選定方法

・委員の構成や選考基準、選考過程等に関する市民意見を集約し、できるだけ多くの人が納得ので きる選定方法を考える。
・公正な選定を行うために、NPOあるいはNGOの全国組織の代表、一般公募市民などと設置主体 (行政)で構成する選定委員会を設けることが考えられる(参考:愛知万博6者協議)。

(6)検討委員会の運営方法

・委員会の議論は、委員の提案を軸に行うものとし、設置者(行政)は、委員会の自由な討論や 提案を保証する。
・事務局は行政関係者だけでなNPOや専門家など第三者が加わることを検討する。
・公開を原則とし独自の広報手段を通じて広く市民に知らせ、公開討論会などを適宜開催する。

(7)検討委員会の発展イメージ

・検討委員会の発展イメージを大きく次の3つのステップにまとめました。各ステップで、内容 が異なりますので、検討委員会の構成などはその都度変わることを想定しています。

解決と地ならし


第4章 市民参加と合意形成のしくみ


1.市民参加で計画を進める 

 第1章で述べたように、可動堰化計画では、トップダウン式(行政から市民に計画を降ろす) の「計画ありき」によって、対立が生まれました。ここでは第2章で示した「多様な視点からの 第十堰問題を考える」、あるいは「吉野川全体の治水計画を考える」というところを出発点に、 ボトムアップ式(市民、地域からの計画づくり)で吉野川を考えていく方法を提案します。
 まずは計画策定から合意形成までの手順の中に、市民参加の場がどのように位置付けられるの かが、しっかり示される必要があります。しかし、市民がただその中で「意見を言う」だけでは なく、主体的に提案や将来計画を立てるためには、吉野川についての積極的な情報収集や学習も 必要となります。
 また、川づくりの担い手となるような市民活動を広げていくことも大事です。

(1)計画の各段階での市民意見の反映と合意形成

 可動堰化計画の反省を踏まえると、これからは、事業の必要性のところから、計画の各段階で 市民参加を積み上げていく必要があると思います。
計画プロセス


2.市民、行政が情報を共有し、学びあう


 市民参加による計画づくりでは、川のことや吉野川とかかわって生きている人の情報や知恵を、 行政も市民もともに学んでいくことが基本になると思います。
 また市民参加を単なる手続と捉えず、川づくりの計画が、より豊かに、人の心や暮らしに生き るものにするために市民参加を行なうという視点が大事だと思います。

●行政の側からの情報発信

 団体訪問では、行政の情報公開の問題が強く指摘されていました。行政は、市民が活用しやす いように、客観的でわかりやすい資料を提供する必要があります。膨大な資料をどのような形で 市民に提供していくのかを検討する必要があります。

●市民の側からの情報発信

 情報は行政の側だけにあるのではありません。市民の暮らしの周りや体験の中に宝物のような 情報があります。市民の側からも主体的に情報を発信していく必要があります。

●行政情報と市民情報を地図化して情報の共有化を図る

 市民団体などの調査による情報を収集・整理したり、流域の各地区、市民団体、地域の学校等 が中心となり、生き物、遊び場、景色、歴史など川にかかわる豊かな情報を掘り出して地図上に 整理する。
 これに、行政が調査した科学的な情報などを重ね、ひとつにまとめて、誰でもが見られる形に して提供していくことで、流域の情報を多くの人が共有することができます。その場所ごとの情 報がわかるとともに、上流と下流のつながりなど、全体像が見えてきます。
 市民参加で吉野川を考えるというのは、自分の考えを述べればよいということではありません。 その場所に即した提案や上流下流のつながりを配慮した提案が必要になってきます。
 そのときに、吉野川の場所ごとの情報が「空間情報」として、話し合いの場に提供されている ことが重要になります。

●「川に出て考える」場をつくる

 市民参加の場で起こりがちなこととして、理念を述べ合うということがあります。上流のこと を話しているのに、自分が住んでいる下流だけをイメージして発言するといったことが起こりま す。そうすると、話がかみ合わなくなります。
 ある場所の計画を考える場合は、参加者が必ずその現場に立って、情報を共有した上で話をす ることが大事になります。洪水のことを考えるには、大雨の時の吉野川を見に行くことなどが考 えられます。日頃から、「川に出て考える」機会を用意することが必要です。

●吉野川の治水、利水、環境について学ぶ

 計画づくりを通して、案を出したり、評価するために必要な知識を深められる機会が必要だと 思います。これは、専門家や行政が市民をサポートする形で行なっていく必要があります。

●「吉野川情報センター(仮称)」の提案

 市民の情報や行政の情報がひとつの場所に集められ、誰もが気軽に立ち寄れ、市民団体が会議 などに使うことのできる拠点が必要だと思います。当面、行政がこのような活動をサポートしつ つ、将来的には市民団体や流域活動団体が主体となって、NPO(特定非営利活動法人)による運営 が可能になるとよいと考えます。市民と行政による双方向の情報の発信・収集をベースにしなが ら、吉野川の住民活動を豊かにしていく様々な活動の連絡拠点としても機能していくことが期待 できます。

3.市民活動の輪を広げる

 議論の場だけでなく、実践活動の輪を広げることで、市民参加は継続性のあるものとなってい くのだと思います。すでに積極的に川にかかわっている市民活動団体などを核に、新しく市民活 動組織が生まれ、それをつないでいくことが、計画づくりに市民が主体的に参加する基礎になる と思います。
 日常的に川に関わる市民がどれだけいるかがカギになるでしょう。

●市民団体と行政の協働事業を検討する

 市民参加が一歩進んだ形として、行政と市民団体が互いに対等の立場で川づくりの事業に取り 組むという形が考えられます。特にNPO(特定非営利活動法人)は、徳島でも今後増加すると考え られ、施設の運営、水辺や森の管理、イベント企画など、市民ならではのアイデアと行動力を、 川づくりの事業の中で活躍してもらうことで、さらに市民参加の輪が広がっていくと思います。
 吉野川にある水防竹林を市民参加で管理していくための事業など、市民と行政が話し合い、お 互いに協力しようという事柄を協働事業として予算化するなど、市民と行政が協力して行う新し い事業を生み出すことも必要でしょう。

●流域自治体と市民活動、それぞれの連絡組織づくりと連携

 吉野川の治水は、河川管理者だけの役割ではありません。流域自治体それぞれが災害に強いま ちづくりに取り組むことが必要です。と同時に、上流と下流の町では利害が異なるということも ありますから、日頃から流域自治体や国土交通省と徳島県が交流する仕組みが必要と思われます。
 市民の側も、それぞれがバラバラに活動するのではなく、緩やかな連携を主体的につくりだし ていくことが必要だと思います。
 市民参加の計画づくりを通しての話し合いの場、情報センターなどを通しての交流を重ねて、 自然な形でつながっていくことが望ましいと思います。
 市民団体の連携組織と流域自治体の連絡組織が、それぞれ独立性を保ち、それぞれが提案を していく仕組みをつくる必要があると思います。

●「吉野川流域協議会(仮称)」の設立

 第十堰の問題解決や市民参加による計画づくりを進めていくには、行政と市民の日常的な交 流の場を用意し、案をまとめ、合意形成を図っていく仕組みが必要です。第十堰をきっかけに 「吉野川流域協議会(仮称)」のような仕組みを生み出す方向で取り組んでいくことが重要だ と思います。


発展イメージ

おわりに

 私たちは、建設省(現国土交通省)徳島工事事務所の呼びかけに自主的に応募した市民の集 まりです。「懇談会」の発足のいきさつ(見切り発車という批判)があり、団体訪問では、「 解散すべきである」との厳しい意見をいただいたこともありました。また、アンケートや訪問 自体を断るという団体もありました。
 徳島工事事務所は募集人員(6人)を超えた応募者に対して人選を行うということはせず、 すべての応募者を受け入れましたが、これも市民参加のひとつの形だと私たちは考えています。
 私たちは、この1年間、真剣に議論してきました。建設省(現国土交通省)の提案をもとに 議論してきたのではなく、メンバーから出た意見や団体訪問などでいただいた意見をもとに、 自主的に運営してきました。
 現在の困難な事態を打開するに十分な提言ができたとは思いませんが、これもひとつの市民 提案であることだけは確かです。
 この「最終提言」をもって懇談会は解散します。ひとつの市民意見として、今後の話し合い に活かしていただければ幸いです。